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第三話−1
デリソナン大陸にその名を轟かす、大国ルーディアの首都。一辺数キロにも及ぶ防壁が八角形に取り囲む、政治、商業の中心地――王都フェルギオラ。
西に雄大なネイロ川の流れを、東に秀麗なハバロニア山を臨むその美しい都市の北門を出て、レイリー、マイク、フィリガルの三人は北東へ向けて馬を走らせた。直線に目指すのではなく、整備された街道に沿って快調に走らせ、街々で休息をとりつつ進む。
そして、フェルギオラを出て五日後。彼らは国境を越え、隣国ヤルツファニア王国南端の都市、ルクオンを素通りし、無事目的地サンダラクトへと到着した――と、なるはずだったのだが。
「ど・お・し・てっ、一週間もかかっちゃったのかしらぁぁ!?」
「ひたひひたひ」
ギリギリと、フィリガルの頬をつねりあげ、レイリーは押し殺しもしない大声で言った。
「毎度毎度、もう言うのにも飽きすぎてバカらしくなってくるくらいいつも通りに! なんであんたはこうも見事にナンパこいて旅を遅らせてくれるのかしらね!?」
「ひたひっへは。しゃへへはひひょへひひー」
「喋れなくて結構! むしろこの口縫いつけてやりたいくらいだわ!」
びッ、と音がするほど勢い良く、つねっていた頬を弾く。大きく鼻息をついて睨み付けるレイリーに、フィリガルは痛そうに頬をさすりつつ言った。
「ううう……いつものことだけど、ひどいよレイリー」
「それは極めて明確にこっちのセリフ! どうしてこう緊張感がないの……バイドゼル山の時とは違うのよ!? あと十日ちょっとしかないのよ、わかってる!?」
「わかってる、わかってるよ。だけどね、レイリー」
「なによ」
どんな言い訳も聞かないわよ、と胸の前で腕を組む。フィリガルは、どこか遠くを見つめるような目で言った。
「理解してはいるんだよ……今のピンチな状況をね。だけど、だけど。ボクを見つめる女の子たちの目が。あの胸をときめかす輝きを秘めた瞳が。ボクの防御を突き崩すんだ……!」
「寝言しか言わないなら、もう起きてなくてよくない、あんた……?」
「まぁまぁ」
すぐそばの、木造の建物――厩舎である、彼らはここに馬を預けたのだ――から出てきたマイクが、すぐさま二人の言い合いを見て取って宥めにかかった。むー、と唇を尖らせるレイリーに言う。
「こいつのバカは今にはじまったこっちゃないだろ? 俺は最初からこのくらいかかると思ってたぜ。予定通りだ。アホに合わせてのんびりいこう」
「あ〜〜〜まてまて、マイク? お前今、さりげにとことんボクをバカにしただろ。そんなことが許されると思って――」
「でもマイク、今回はいつもと状況が違うのよ? これでコケたらクビなのよあたしら? そのコケる原因がこいつの女好きでしたーとか、死ぬほどヤじゃない? あたしはヤ」
極めて率直に述べるレイリーに、マイクは否応もなく頷いた。
「まったくその通りだ。俺だって嫌だ。けど、一週間かかっちまったものは今更言っても仕方がないだろ。これから急ぐしかない。な?」
「まぁ、そうだけど……でも正直こいつさ、手足縛ってそこらに転がしといて、あたしたちだけで全部やっちゃったほーが色々好都合なんじゃない?」
「ここのとこレイリーがほんと激しいねぇ……」
誰の所為だと、と口には出さずに、視線に込めて睨み付ける。フィリガルはさっとそっぽを向いて、口笛なんぞも吹きながら、先頭に立って歩きだした。小さくため息をつき、やれやれと首を振って彼に続く。
「……しっかし、小さな街だな。予想してたよりずっと」
「……そうねぇ」
隣りに並んだマイクの言葉に頷いて、レイリーはサンダラクトの街の様子を眺め回した。
彼の言う通り、小さな街である。さっと見回した範囲――おそらく街の中心部なのだと思うが――にある建物は、ほとんどが木材のみの造築であるようだ。だいたい二階建てで……というか、三階建て以上の建物が見当たらない。商店、露店はぽつぽつと、人通りもないことはない程度。木の枝で作った剣でチャンバラをしていた子供たちが数人、ぽかんと口を開けてレイリーたちを見ている。
(ルクオンからも遠くないから、もうちょっと都会都会したところかと思ってたんだけど……どっちかってゆーと、街っていうより農村みたいな感じね)
ふむ、と小さく鼻から息を抜き、レイリーは前をゆく魔術士のマントを引っ張った。ぐげ、と妙な声を出して、仰け反り立ち止まるフィリガル。
「なっ、何? 何をするんだいレイリー?」
「今、きょろきょろしてた。またナンパなんてしてたら、さすがにちょっと許さないわよ? 半身大回転の刑に処すから、心しときなさい」
「それって理論的に死ぬんじゃ……? それに、違うよレイリー」
フィリガルは、手にした小さな紙片を彼女に見せ、ぺらぺらと振った。
「ダグラスからもらった、やつの知り合いの家を探してるのさ。それに、こんな小さな街じゃ、ちょっと美人は期待しづらい感じだしね」
「ああ。……で、訪ねた先にすっごい美人の娘さんがいたりしたら、大笑いよね」
そう言った瞬間。ぴくり、とフィリガルの頬と眉が動き、レイリーは己の愚かさを呪った。
「……なるほど。なるほど、レイリー。それは素晴らしく王道な展開だ。まったくもって王道だ。そして王道は期待できる。王道だからこそ期待できるよ、素晴らしいよレイリー!
そうと決まれば行こうさぁ行こう」
キラリ双眸を輝かすとともに、ずんずんと一人進み出すフィリガル。レイリーはため息をつき、ぼりぼりと後頭部を掻いた。
「ったく……ほんとにもう。女のコトとなるとやる気出すんだから……」
「まぁ、いいんじゃねーの? この場合は」
のほほんと言うマイクに、いかがなものかと首を振る。これでもし、向かう先に本当に綺麗な娘でもいた日には、もう仕事にならないこと請け合いである。ただでさえ時間がない上に、うまく目的の果物と調理法が手に入るかどうかすら不安であるというのに。
(あうう。これもけっこー危ない橋だなァ……でも、仕方ないか)
「それに」
「う?」
なんとなく気分をヘコませたレイリーに、マイクはどことなく自信ありげに言った。
「この場合の真の王道は、娘はいるがブスだった、ってオチだ」
「……それもそうね」
何がそうなのか知らないが、ともかくレイリーは頷いて、フィリガルの後を追って歩きだした。
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