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第三話−8
奧の階段から、軽装に濃緑色のマントを着込んだ老人が姿を見せていた。
「……オルバ、さん?」
「悪いが、聞かせてもらったぞ」
レイリーに頷いて、オルバはテーブルに近づいてきた。あまりいい顔をしないで、シュリフがぶつぶつと呟く。
「むぅ。立ち聞きとは、趣味の悪い……」
「階段に座っとったから、立ち聞きではないわい。にしてもシュリフさんよ、あんた、ものを知らんのぅ」
呆れたように言って、彼は親指で無遠慮にレイリーたちを指した。
「彼らはの、菓子職人をやる前は傭兵をやっておったんだよ。デリウス・ゲリーナ戦役ぐらいは、あんたでも知っとるだろうが。あれで活躍した三人だ」
「は……? よ、傭兵? デリウス・ゲリーナ、とは……四年前の?」
言われたことを繰り返し、きょとんとしつつもレイリーたちを見るシュリフに、レイリーは苦笑して答えた。
「本当です。あたしたちは元傭兵なんです」
「……そ、そうだったんですか。いやぁ……確かに、なんだか本格的な武具をお持ちだなァとは思っておりましたが。それはそれは……」
「ま、そういうことだよ」
フィリガルが腕を組み、どこか自慢げに言う。椅子に座ったままマントを払おうとし、当然引っ掛かって難儀しながら、
「ボクらにかかれば、ウッドゴブリンの十匹や二十匹。小指だね、小指。一掃して、村の人たちが安全にリビアナを収穫できるようにしてあげるよ」
「ちょ、ちょっとフィル? そんな安請け合い――」
「おお! 本当ですか!? 素晴らしい!」
ガタッと立ち上がり、両手を広げて喜ぶシュリフ。いよいよ調子に乗ったのか、フィリガルも立ち上がって大風呂敷を広げる。
「本当も本当、どんとまっかせなさーい! この稀代の天才魔術士、フィリガル=メルロイド様がばっちり村を救ってあげようじゃないか! もう何も心配はいらない、村人揃って大船に乗り込むといいよ!」
「なんとありがたい! ああ、あなたたちこそ最高の菓子職人です!」
がっしりと握手する二人を前に、レイリーは頭を抱えてため息をついた。マイクも同じく、高笑いをあげる二人を呆れた顔で眺めている。
と、
「さて。話が決まったところで、相談があるんだがの」
オルバがテーブルの隣りに立ち、レイリーに向かって言った。
「……相談?」
「なに、難しいことは言わん。わしもリビアナを採りに同行させてくれんか、とな」
『えっ?』
揃って声をあげる三人。シュリフが眉根を寄せて口を挟む。
「ちょ、ちょっとオルバさん? ホイロッサさんたちの入山はそりゃ許可しますがね、あなたまでは――」
「外野は黙っとれぃ」
思いきり当事者の彼をただの一言で外野まで退け、オルバはにやりと妙に貫禄ある笑みを浮かべた。
「わしゃ、好奇心が旺盛での。あんたらが実をもって帰ってくるのを待って、それを買うてもいいんだが、ちとつまらんと思うてな」
「は、はァ……しかし、その」
「なぁに、わしも一人旅が長い。年寄りの冷や水レベルではあるが、護身の方法はいくらか心得とるでな。あんたらはわしに構わず、採るものを採ることに専念すりゃいい」
あっさりとそう言い放つ。どうにも退きそうにないな、と思い、レイリーはマイクたちに目で訊いた。ま、いいんじゃないの、という風な表情で、二人が頷く。
「……わかりました。じゃあ、一緒に行きましょう」
「ありがたい! では、善は急げだ。おい、シュリフさんよ、コンパスを用意してくれんかね。あと山の地図があればそれもだ。ほれほれ、座っとらんで早うせい!」
パン、と両手を打ってたちまちシュリフをこき使いはじめるオルバに、レイリーはまた苦笑した。一人旅をしていることも含め、なんとも元気な爺さんである。
ふと見ると、フィリガルがじっとオルバを見つめていた。いつになく軽薄でない、普通の表情で――というのも難だが――、首をやや傾げているようだ。
「……フィル? どうかしたの?」
「……ん? いや、なんでもないさ。ボクらも準備しないとね。レイリーもマイクも、武器とってきなよ」
「うん……」
「ああ」
頷いて、立ち上がる。そうだ、武器を取ってこなくては。リビアナの実を採るために。
フェルギオラを出て、一週間と一日。
「よしっ」
皮の手袋をギュッと締め、彼女は気合いを入れ直した。
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