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第四話−2
やがて、
「おっかしいなァ……この辺のはずなのに」
小さく呻きつつ、レイリーは周囲を見回した。
森の風景は、ひとつとして同じ景観など存在しない。しかし変化に乏しいという、色彩的な矛盾をはらんで、そろそろ飽きを誘いそうだった。シュリフの描いた適当な地図とにらめっこしながら、ぶつぶつと呟く。
「中腹って言ったらこのくらいだし……目印の大岩はさっき通り過ぎたし。やっぱりこの辺りにあるはずなんだけどなァ……ない? リビアナの実」
「ないよ〜」
わざとらしく片手をかざし、遠くまで見回すフリをしながらフィリガルが答える。
「あの茶色くて固い、極めてマズそーな実はまったくどこにも見当たらないね。ただのひとつも」
「お前、なんでそんな……ああ、いいやもう。土と似た色だから、注意して探そう。ケハンの木じゃない木を探すのも手だな」
マイクがそう言うのも道理である。それなりに山を登ってきたが、植物全体としてはどうあれ、樹木という部類ではケハンの木以外のものがほとんど見られなかったのだ。その理由はわからないが、とりあえず、このケハン以外の樹木を探す方法は間違いではないだろう。
とはいえ、
「あたしら、リビアナの木って見たことないのよね、実際。大丈夫かな?」
「ケハンの木じゃないのを見つけて、それに実が生ってるかどうか確認すればいいんじゃないかな?」
「う〜ん、それしかないか……ん?」
ふと見るとオルバが一本の木の前で立ち止まっていた。むつかしい顔でじっと見つめ、顎先を片手でゆっくり撫でている。数歩下がった場所から斜面になっていたので、レイリーは近づいて言った。
「オルバさん、後ろ、危ないですよ?」
「ん? おお……」
「何を見てたんです?」
言いながら、レイリーも見る。そしてオルバが、たった今話していたケハンの木ではない木を見ていたのだとわかった。
丈は、マイクよりやや高い程度だろうか。相応の幹や枝に、小さな葉をたくさんつけている。ケハンの木に挟まれるようにして、一見ザクロにも似ているような、それはそんな木だった。
レイリーは小首を傾げた。
「これ、何の木でしょう……?」
「さてな。わしも分からんから見ておったんだが」
「はァ……。でも、リビアナの木じゃないですよね? 実がついてない」
彼女の言葉に、オルバは小さく頷きながらも、目を細めてその木に近づいた。
「いや……これは――」
頭上で、枝葉の擦れる音がした。
その刹那。
「レイリー!」
マイクの鋭い声が飛んだ瞬間、レイリーはオルバの背後から、その小柄な体を片手で抱きかかえるようにして真横へ飛び退いていた。振り向くと同時、今まで彼女らが立っていた場所に、真っ黒い影が重い音を立てて着地する。
(ちッ……)
レイリーは胸中で舌打ちし、落下してきたモノを素早く見て取った。
人間の胸ほどまでしかないその小柄な体躯は、分厚い筋肉と茶色い体毛で覆われている。人型ではあるが、かなり細身に引き締まった大猿という感じであった。顔は人と猪の中間のようで、凶悪さを現す牙がずらりと口に並んでいる。やたら長い指で大きな石を持ち、それを飛び降り様に振り下ろしたのだろう、メリ込んだ地面からゆっくり引き抜いている。
ウッドゴブリン。樹上から飛び降り、獲物を襲うモンスター。
一秒ほどでそこまで認識した時には、既にレイリーは弓を引き絞っていた。間を置かず弦が弾かれ、今にもこちらに向かおうと振り向いたウッドゴブリンの右目に矢が突き刺さる。
ギィイッ!?
甲高い悲鳴をあげ、ゴブリンはどうと地面に倒れた。すぐさま新たな矢を引き抜きながら、レイリーは背後に目を向けて、
「オルバさん! 大丈夫で……す、か?」
「う、うむ」
尻餅でもついているかと思いきや、オルバはしっかりと立って頷いていた。かなり激しい動きだったというのに――やはり、なかなか元気な爺さんである。
ともあれ、驚いてはいるようで、彼はレイリーと背中合わせに立ちながら言った。
「なんとまァ。上から降ってきよるのか」
「ウッドゴブリンの特徴のひとつです。こいつら、樹上で生活できるから……」
答えて、彼女は油断なく見上げた。
木漏れ日を透かしたケハンの樹幹のあちこちに、黒い塊がくっついている。長い手足を使って木に取り付き、重たそうな体をするすると上下させている。全てウッドゴブリンだ。ざっと見ただけでも、十五。
「普通のゴブリンより知恵が回り、力もあります。飛び降り攻撃にだけは注意してください、潰されないように!」
「やれやれ、こいつはとんだことだ……!」
言う間に、一匹の鳴き声が高らかに響き――次の瞬間。
ゴブリンたちは、一斉に木から身を躍らせ、彼女ら目掛けて襲いかかってきた。
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