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第四話−6
「……レイリー?」
声をかけられ、ハッとする。振り向くと、サンドイッチを食べ終えたらしいフィリガルが、指についたカスを舐めとりながら彼女を見ていた。
「どうかした? ぼーっとしてたよ、今。ああいう気の抜けた表情もいいねぇ」
「うん……って、いちいち余計なこと言うな、鬱陶しい! 別になんでもないわよ」
「あんたさんら、どうでもいいが、わしの分のリビアナはしっかりとっておいてくれよ」
同じく食べ終わったらしいオルバが、二人のやり取りを見てにやりと笑う。その笑みに、なんとなく気恥ずかしい何かを感じて、レイリーはサンドイッチを口に詰め込んだ。適当にもぐもぐやって、無理矢理飲み込む。
「わしゃあんたらと違って、シュリフから買わにゃならんのだからな。そっち優先にしといてくれんと困る」
「おいちょっと待った。なんでそうなるんだよ? 優先されるべきはボクたちだろ」
「なんでそうなるとは、頓珍漢なことを言うのう。金を払うんだから、わしゃ客だぞ?」
「関係ないだろ! 宿の泊まり客って意味じゃボクらだって客さ!」
フィリガルは立ち上がり、何のつもりか、水を入れたコップを老人に突きつけた。どうやら、老人の口の悪さにそろそろ堪忍の限界らしい。同族嫌悪というやつだろうか、とレイリーは小さくため息をついた。
「いいかい、誤解のないようここで言っとくけどね、ボクらはリビアナの実のために遙々フェルギオラから馬を飛ばしてやってきたんだ!」
「馬は飛ばんがの」
「やかましい! 悠々自適生活を送ってるあんたと違って、ボクたちは背水の陣なんだ、瀬戸際なんだよ! それを鑑みてもまだそんなこと言えるか!?」
「ふん、所詮菓子じゃろうがい。なにもリビアナを使わずとも、苺でケーキを作っておればいいんではないか」
「なぁーんんーだぁーとぉ〜〜〜!?」
「も〜……よしなよ、フィル」
ヒートアップする言い合いを、ため息混じりに止める。もぐもぐと、レイリーは最後のサンドイッチを飲み込んだ。
「ちゃんと、全部足りるだけ採れば問題ないじゃない。どっち優先とかじゃなくてさ。でしょ?」
「そりゃそうだけど……」
不満げに語尾を濁すフィリガル。横目でオルバを睨んで、フンと鼻を鳴らす。しかし老人は、どこか面白がるような表情でその視線を受け止めた。妙なところで燃え上がる対立の炎に、レイリーはやれやれと首を振った。まったく、他にすることはたくさんあるだろうに。
フィリガルの言いたいことも分かる。今の時点では、充分なだけのリビアナの実が確保できるかどうか、お世辞にも確信できないからだ。オルバが何個必要なのか知らないが、自分たちの分だけでも見つけることができるかどうか。
(ま、不安になってる暇もないんだけどね)
くぴ、と水筒の水を飲み、栓をする。長々と休んでいる暇も、ない。
「マイク、食べた?」
「おう」
彼女らは、さっさとその場を片付けはじめた。といっても、水筒などの道具をリュックにしまう程度のことである。休憩した場所は目印になるので、下手に元に戻すことはしない。
「にしてもさ。リビアナの実、どんなお菓子にしようね? 普通にケーキとかかな」
「ああ、ボクは……うん、何にしてもいいと思うな。きっとウケるよ」
「ウケる……? ああ、うん、そうね。美味しいもの――」
フィリガルと話しながら、レイリーはマイクの大きなリュックに荷物をしまおうとしたのだが。
「……え」
彼女の目が点になった。思わず、その場に硬直する。
「レイリー? どうかし……た、の……」
フィリガルの声も尻すぼみに消える。おそらく、彼女と同様にきょとんとしているのだろう。
目の前で、リュックがゆさゆさと左右に揺れているのだ。
『…………』
地震ではない。風のわけがない。マイクとオルバは、背後で何やら山の地形について話しているようだ。だからこのリュックは、つまり、ひとりでに揺れていることになる。
無言で見つめる前で、こてんとリュックが横に倒れた。ころりころりと、リビアナの実がふたつほど転がり出てくる。
そして、倒れたそれの後ろから、ひょこりと何かが姿を見せた。
四十センチほどの身長。愛らしい中世的な顔立ちに、ゆったりした緑のローブのような衣服をまとっている。大きな澄んだ瞳が、ぱちくりと瞬いて見上げてきた。
「……小人?」
ぽつりとレイリーが呟いたように、それは小さな人間、小人のようだった。だが、どうしてこんなところに? なんでリュックを揺さぶっていたんだろう? というか、
(目が、合って……なんて綺麗な瞳)
見上げる小人と視線がカチ合い、なおかつそれを逸らせないまま、レイリーはそんなことを考えていた。これも、モンスターか何かなんだろうか。
「お……おお? フラウルじゃないか!」
背後からの声に、小人から視線を外して振り向く。レイリーの肩越しに覗き込むように、オルバが立っていた。珍しげに小人を見ながら言う。
「久しぶりに見た……こんなところにもおったのか。もう、あらかた消えてしまったかと思っておったが」
「フラウル……?」
「地に棲む精霊の一種でのう。聞いたことはないかね?」
頷き、レイリーは小人――フラウルに視線を戻した。いまだ見上げてきていたらしいそれは、再びレイリーと視線が合うと、突然にっこりと笑った。それは、あまりに可愛らしい人間的な笑顔で、思わずつられて微笑んでしまう。
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